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オリンピックの“顔”、歴代エンブレムのデザインをまとめてお見せします!-前編-
「2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会」(以下、(以下、「東京2020オリンピック・パラリンピック」と記述します)は、1964年に開催された「東京オリンピック・パラリンピック」以来57年ぶり※、2回目の日本での開催となりました。
※本来は“56年ぶり”でしたが、開催が1年延期となった為に“57年ぶり”となりました。
普段はあまりスポーツに興味の無い人も、今回のオリンピックは自国開催という事もあって、関心を寄せた人も多かったのではないでしょうか?
「東京2020オリンピック」の閉会式では、次回2024年大会の開催地であるパリへの「引き継ぎ式」が行われ、パリ大会の「エンブレム」も印象的に映し出されていましたね。
「オリンピック・エンブレム」は、各大会における“顔”となるもので、開催地ごとに個性豊かなデザインになっています。
今回は、そんな個性豊かな歴代のエンブレムのうち「夏季オリンピック」のエンブレムを、前編・後編に分けてご紹介します。
スポーツ大会やスポーツイベント、運動会などのロゴデザインのアイデアになる部分もありますので、ぜひロゴ作成の参考にしてみてください。
■目次
-「エンブレム」と「ロゴ」は違うの?
-歴代の夏季オリンピックエンブレム-前編-
・1924年—パリ(フランス)
・1932年—ロサンゼルス(アメリカ合衆国)
・1936年—ベルリン(ドイツ)
・1948年—ロンドン(イギリス)
・1952年—ヘルシンキ(フィンランド)
・1956年—メルボルン(オーストラリア)
・1960年—ローマ(イタリア)
・1964年—東京(日本)
・1968年—メキシコシティー(メキシコ)
・1972年—ミュンヘン(当時:西ドイツ)
・1976年—モントリオール(カナダ)
・1980年—モスクワ(当時:ソビエト連邦)
「エンブレム」と「ロゴ」は違うの?
ところで「オリンピック・エンブレム」ですが、このような“図案”のものは一般的に「ロゴ」と呼ぶので、『何で「ロゴ」と言わずに「エンブレム」って言うんだろう…?』と思った方は多いのではないでしょうか。
これについては、「オリンピック憲章」※に、下記のように記されています。
※「IOC(国際オリンピック委員会)」が採択した基本原則、規則などを文章として書き表したもの。
オリンピック・エンブレムは、オリンピック・リング(五輪マークのこと)に他の固有の要素を結びつけた統合的なデザインである。
引用元 | オリンピック憲章/第1章の11より
エンブレムを構成しているのは「トップエンブレム(図案部分)」・「ワードマーク(文字部分)」・「五輪マーク」(パラリンピックの場合は「パラリンピックマーク」)の3つの要素で、日本のオリンピック委員会では「五輪マークが無いもの=ロゴ」、「五輪マークを含んだもの=エンブレム」と定義しています。
歴代の夏季オリンピックエンブレム-前編-
1924年—パリ(フランス)
現在よく見る「ロゴ」とは違い、まさに“エンブレム(紋章)”のようなデザインですね。
図案と文字がかぶってしまっているので可読性が悪いのですが、この当時はまだ「ロゴ」がブランディングとしてどのような役割を持つのか、あまり重視されていなかったという事もあるのでしょう。
1932年—ロサンゼルス(アメリカ合衆国)
「五輪マーク」が入った事で、先程のパリ大会のものに比べ、オリンピックらしいエンブレムデザインになりましたね。
「五輪マーク」の側に書かれている文字はオリンピックのモットーで、「Citius(より速く)・Altius(より高く)・Fortius(より強く)」(ラテン語)です。
「五輪マーク」と共に描かれているのは、“勝利の象徴”である「月桂樹」です。
ちなみに「月桂樹」と言えば、勝利者に贈られる葉っぱの冠「月桂冠」のイメージがあるのではないでしょうか?
実はスポーツの勝利者には「オリーブ」(オリーブ冠)を贈るのが正解。文化・芸術の優れた人物(=その分野の勝利者)に贈られるが「月桂樹(芸術の神アポロンのシンボル)」です。
最近ではその違いに気づいて、「月桂冠」から「オリーブ冠」に変更したスポーツ大会もあったようです。
1936年—ベルリン(ドイツ)
モノクロで、「五輪マーク」が横に広がったデザインになっているので、パッと見た感じ別のマークにも見えてしまいますね。
エンブレムには当初、ベルリンを象徴する「ブランデンブルク門」が描かれていたそうですが、大会組織委員会長が納得しなかったようで、デザインを修正する事に。最終的に鐘のデザインになったとの事です。
鐘の部分に書かれているの文章は、「Ich rufe die Jugend der Welt!」(世界の若者を招集する)。世界のアスリートが集まる大会らしいコピーですね。
「五輪マーク」の上に描かれている鷲のモチーフは、ドイツの国章である鷲を表しています。
鐘はエンブレムのデザインとして使われただけでなく、オリンピック用に実物の鐘が作られ、ベルリン大会を象徴するモチーフの1つとなりました。
1948年—ロンドン(イギリス)
時計塔「ビッグ・ベン(エリザベスタワー)」と言えば、ロンドンを象徴する建物ですね。
このエンブレムは、これまでのものと違って開催都市が非常に分かりやすいです。しかも「五輪マーク」を時計塔の前に配置し、可読性を高める為に白を使って描かれているので、“オリンピックのエンブレムである”という事も分かりやすいデザインとなっています。
ところで、時計塔の針が“午後4時”を指して描かれているのですが、その理由は分かりますでしょうか?
この時刻は、オリンピック開幕予定時刻を指しているのだそう。デザイナーのこだわりでしょうか、芸が細かいですね。
1952年—ヘルシンキ(フィンランド)
エンブレムに描かれている建物は、オリンピックのメインス・タジアム「ヘルシンキ・オリンピックスタジアム」の傍に建つタワーです。
一般的にはスタジアムの方をデザインに採用しそうですが、タワーの方を使っているのが少し変わっていますよね。
実はこのタワーは高さが72mあり、ヘルシンキの街を一望できるそう。
周りに高層建築物が無いので、スラットそびえるタワーはなかなかの存在感があります。スタジアムの側にこのような高層タワーが建っている事自体が珍しいので、これはこれでヘルシンキ大会らしさを表したデザインなのです。
これまでのエンブレムは時代を感じさせるデザインでしたが、ヘルシンキ大会のものはすっきりシンプルで、現在のロゴに通じるデザインですね。
ところで、フィンランドと言えば日本でも人気の「北欧デザイン」が思い浮かんだのではないでしょうか。
実はヘルシンキ大会が開催された時期にあたる1950年代から1960年代にかけて、「北欧デザイン(スカンディナヴィアデザイン)」が世界中に広まり、世界的に「北欧デザイン」の一大ブームが起こっていました。
日本においては1990年代半ばから「北欧デザイン」のブームが起こりましたが、“シンプルモダン”のデザインは、ヘルシンキ大会の頃から既に確立されていたのです。
1956年—メルボルン(オーストラリア)
オリンピックを象徴する「トーチ(松明)」と、勝利の意味を持つ「月桂樹」が描かれた、オリンピックらしさを感じるデザインですね。「トーチ」の後ろには、オーストラリア大陸の地形も描かれていて、開催国をさりげなくアピールしています。
ところで、エンブレムの上部にローマ数字で「XVI」が入っていますね。
このローマ数字は、オリンピック開催回(第◯回大会)を表しています。
過去に戦争で中止となった大会が3回(ベルリン、東京、ロンドン)ありますが、その大会も開催回にカウントされていて、「東京2020オリンピック」は第32回大会にあたります。
1960年—ローマ(イタリア)
エンブレムに描かれている動物は「牝オオカミ」で、その下にいる小人のようなシルエットは、ローマを建設したとされる双子の兄弟「ロムレス」と「レムス」。
牝オオカミの乳を飲む双子の様子は「ローマ建国神話」をモチーフに描かれた有名な場面で、ローマの象徴となっています。
エンブレムの真ん中に入っているアルファベットは「ローマ数字」で、開催年の「1960」を表しています。
「アラビア数字」ではなく「ローマ数字」を使う事で「ローマ建国神話」のモチーフと雰囲気も合い、歴史あるローマの街らしいデザインですね。
1964年—東京(日本)
この印象的なエンブレムは、当時のオリンピックを知らなくても、何かで目にした事がある人は多いのではないでしょうか?
一度見たら忘れられないこのエンブレムをデザインしたのは、亀倉雄策(かめくら ゆうさく)氏。
「日の丸」のモチーフ・赤と金の配色という少ない要素で、シンプルに“日本らしさ”を表現したこのエンブレムは、60年近く経っても色褪せない素晴らしいデザインです。
ちなみに、亀倉氏はオリンピック公式ポスター4枚のデザインも手掛けたのですが、オリンピック史上初“写真を使ったポスター”はいずれもインパクトのあるグラフィックで、世界的に高い評価を得ました。
1968年—メキシコシティー(メキシコ)
これまでのエンブレムと違い、モチーフの無い「ロゴタイプ」のみのデザインです。
こちらは、大会組織委員会長で建築家でもあるペドロ・ラミレス・バスケス氏、エドゥアルド・テラサス氏、ランス・ワイマン氏の3人による作品です。
複数の線を使って描かれた「MEXICO」の文字や、「五輪マーク」と組み合わさった「68」(開催年)の数字など、文様のようにも見えるデザインですね。
ペドロ氏によると、当時流行していた「オプ・アート」※とメキシコ原住民のウイチョル族の伝統的な模様が似ていた事から、このエンブレムのコンセプトが生まれたそうです。
※錯視や視覚の原理を利用した絵画ジャンル。“だまし絵”の一種であるが、原則的に抽象作品の事を指す。
1972年—ミュンヘン(当時:西ドイツ)
貝の渦巻のようにも見えるこのデザインは“光の冠”を表していて「光を放つミュンヘン」と呼ばれています。“光、新鮮さ、寛大さと”いうミュンヘンオリンピックの精神を象徴しているそうです。
この頃にはすでに「オリンピック憲章」はあったようですが、エンブレムに関する規定は無かったのでしょうか…「五輪マーク」が無い、非常に珍しいエンブレムです。
このエンブレムをデザインしたのは、ドイツを代表するグラフィックデザイナーでありタイポグラファー(書体デザイナー)のオトル・アイヒャー氏。
彼はオリンピックのビジュアルコンセプト委員会のディレクターも務めた人物で、エンブレム以外にもポスターや入場チケット・マニュアル・ユニフォーム等、大会に関わる様々なアイテムのデザインも手掛けました。
大会に関わるデザインに一貫性を持たせる事で統一感が生まれ、“ミュンヘン大会”というブランドを作り上げたのです。
イベントに関わる様々なアイテムのデザインを合わせる事は今では当たり前となっていますが、東京大会が先駆けとなり、メキシコ大会を経て、この大会で確立しました。
ちなみにミュンヘン大会は、開催期間中にテロ事件が発生し(「ミュンヘンオリンピック事件」または「黒い九月事件」)、悲劇的なオリンピックとして人々に記憶されています。
1976年—モントリオール(カナダ)
こちらのエンブレムは、「五輪マーク」に「表彰台」(高さの違う山のような部分)を組み合わせただけでなく、モントリオールの頭文字「M」も表したデザインになっています。
さらにもう一つ、“小判型”の部分が陸上競技場の「トラック」を表しているように見えますね。
一つのデザインでここまで色んな要素を入れられるのが、ロゴデザインの面白いところです。
1980年—モスクワ(当時:ソビエト連邦)
平行線はスポーツのスピード感を感じさせ、ピラミッド型になっているのは頂点を目指すアスリートを表してるようですね。
また、このピラミッド型の平行線は、ウエディングケーキのように中央が高く突き出たモスクワの有名な高層建造物(通称スターリン7姉妹)を思わせます。
次回は、1984年ロサンゼルス大会から、最新の2024年開催予定のパリ大会までのエンブレムをご紹介します。
※各大会のエンブレム画像とデザインコンセプトは、「IOCWebサイト」の各大会紹介ページより引用しております。
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